“GX推進法”とは|概要・問題点と建築分野の取り組むべき課題を解説
世界で“脱炭素化”の動きが活発になる中、日本では2023年に「GX推進法」が制定されました。
しかし、その概要はまだまだ国民へ広く知れ渡っているとは言えません。
そこで今回は「GX推進法」の目的や概要から、現在の問題点、課題について詳しく解説します。
GX実現に向けて建築・住宅業界の取り組むべきポイントも紹介しますので、環境配慮型建築のプランを検討している方はぜひ最後までご覧ください。
● GXの実現に向けて建築・住宅分野の担う役割は大きく、「建物の省エネ化・木材利用の促進・国産資源の活用」が重要なキーワードとされています。
● 恩加島木材は国内外から産地にこだわった良質な突板を仕入れ、高品質で施工性・デザイン性の高い木質内装建材を製造販売しています。
Contents
GXとは
GXとはGreen Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略称で、化石燃料の消費を抑えて太陽光発電や水力・風力発電などの再生可能エネルギー中心の社会構造へ転換する取り組み全般を指します。
多分野においてGX実現に向けた動きが進んでおり、環境省や経済産業省、国土交通省を筆頭に法令や制度の整備に取り組んでいるのが現状です。
GX推進法
2023年5月に通常国会で採択された法令で、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた脱炭素化と経済成長を両立するための指標を示しています。
GX-ETS(排出量取引制度)
GXリーグ(※)において企業が自主的に排出量取引を行う制度で、2023年度から試行的に開始されており、2033年から本格始動される予定です。
※GXリーグ:2050年カーボンニュートラル実現と社会変革を実現するために、GXに対して民間企業群と官庁、教育機関が協働するプラットフォーム(参考:経済産業省|GXリーグとは)
炭素賦課金(炭素税)
企業の二酸化炭素(CO2)排出に課税して排出量削減を促すための制度で、2028年度開始予定です。
このようにGX実現に向けて多方面からの取り組みが行われている中、民間でもGXへ積極的に取り組む企業に対する資本投資が進んでおり、「GX投資」はもはや経済界でも重要なキーワードと言っても過言ではありません。
社会全体のGX化は着実に進んでおり、特にGX推進法は様々な産業の取り組みを後押しすると期待されています。
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GX推進法とは
政府の行うGX実現に向けた取り組みの主軸となるのが2023年に国会で成立した「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」です。
GX推進法は、世界でのGX投資競争が加速していく中で日本においても脱炭素化と産業競争力の向上を両立させて経済成長に繋げることを制定の目的としています。
GX推進法を知る上で重要となるのが5つのポイントです。
- GX推進戦略の策定・実行
- GX経済移行債の発行
- 成長志向型カーボンプライシングの導入
- GX推進機構の設立
- 進捗評価と必要な見直し
それぞれ詳しく見てみましょう。
GX推進戦略の策定・実行
GX推進法では、官民で総合的かつ計画的に取り組むべき「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」を策定し、経済産業省を筆頭にGX実現に向けた方向性や具体的な指標を示しています。
脱炭素成長型経済構造移行推進戦略の主な内容は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する目標・基本的方向性・支援措置・達成状況の評価方法」です。(参考:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律・第6条)
GX経済移行債の発行
GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)とは、資金の用途を脱炭素に向けた投資に限定した国債で、2024年2月より発行が始まっています。
政府は今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要と試算しており、それをサポートするために設立されました。
2032年までに個人向け・法人向け合わせて20兆円程度が発行される予定です。(参考:財務省|クライメート・トランジション利付国債)
個人の少額な投資から企業による多額の投資まで、広く脱炭素社会実現に向けて支援できる点がメリットとされています。
成長志向型カーボンプライシングの導入
カーボンプライシングとは、企業が経済活動をする過程で排出した二酸化炭素に価格をつけ、それに応じて課税額や負担金を増やす政策手法を指します。
GX推進法ではカーボンプライシングの手法を取り入れ、二酸化炭素の排出量を抑えたGX関連の製品やサービスの価格低下を目指して付加価値を向上させることを重要な目的としています。
具体的には、排出二酸化炭素に課税する炭素税を2028年から、企業ごとに上限を設定した二酸化炭素排出量の過不足を取引するGX-ETS(排出量取引制度)を2033年から導入すると定めています。(参考:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律・第11,15,16,17条)
GX推進機構の設立
GX推進法の中では「GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)」の設立が明記されています。(参考:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律・第54条)
GX推進機構の担う主な役割は、以下の3つです。
- 民間企業のGX投資支援(債務保証などの金融支援)
- 化石燃料賦課金(※)や特定事業者負担金の徴収
- 排出量取引制度の運営(特定事業者排出枠の割当てや入札管理等)
※化石燃料賦課金:化石燃料の輸入事業者等に対して、化石燃料によって想定される排出二酸化炭素量に応じて賦課金を徴収する制度で、2012年より導入されている上流課税。
※特定事業者負担金:発電事業者に対して二酸化炭素排出量の枠を有償で割り当てて、その量に応じて負担金を徴収する制度。負担金額は設定された上限・下限価格の範囲内で入札により決定する。
(参考:経済産業省|我が国のグリーントランスフォーメーション政策)
進捗評価と必要な見直し
GX推進法で制定された施策は法律が成立した2023年時点でまだまだ検討の余地があるとされており、今後の社会情勢に応じた内容更新が前提です。
より実現性の高い法令にバージョンアップしていくために、GX推進法には以下の内容が盛り込まれています。
- 「GX投資等の実施状況」と「二酸化炭素排出に係る国内外の経済動向」を踏まえて、施策内容の検証や見直しをすること
- 化石燃料賦課金や排出量取引制度に関して本格的に稼働するために必要な施策を検討し、GX推進法施行後2年以内に法制上の措置を行うこと
GX投資の進捗状況や二酸化炭素排出量削減率を把握しながら、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略の内容を見直して更新していく必要があるとしています。(参考:経済産業省|GX実現に向けた基本方針参考資料)
ただし現時点では問題点や課題も指摘されています。
GX推進法の抱える問題点と今後の課題
GX推進法は日本経済や社会全体が脱炭素の方向へ足並みを揃えるために重要な法令ですが、実際に施行されるといくつかの問題点や課題が見えてきました。
諸外国のGX化にまだまだ追いつかない
日本は環境大国と言われている欧州諸国と比較すると、GX推進に後れをとっていると言わざるを得ません。
日本と諸外国の二酸化炭素削減目標値を比較すると、日本の数値設定はまだまだ不十分であることが分かります。
国 | 2030年の二酸化炭素排出削減目標値 |
---|---|
日本 | 7.04億tCO2 |
フランス | 2.4億tCO2 |
ドイツ | 4.5億tCO2 |
イギリス | 2.6億tCO2 |
イタリア | 2.3億tCO2 |
カナダ | 4.4億tCO2 |
二酸化炭素排出量の多いアメリカや中国、インドと比べると排出量削減に対する目標値が高いですが、一部では2050年のカーボンニュートラルに向けた削減スピードには無理があると指摘されています。
下のグラフを見ると、ドイツよりも急ピッチで二酸化炭素削減を進めようとしていることは一目瞭然です。
日本はまだまだ化石燃料への依存を解消しきれておらず、GX推進法は“ゴールありき”のCO2削減計画になっていることが懸念されています。
法的強制力がない・企業の自主性に頼っている
GX推進法では本格的なカーボンプライシング導入を2028年からとしています。
そのため、2025年時点では企業に対する法的な強制力はなく、それぞれの自主的な環境への取り組みに頼っているのが現状です。
資金力や人材の豊富な大企業はGX実現に向けた取り組みを実施していますが、中小企業の中にはGXの必要性を感じていながらも着手できていない会社は少なくありません。
また、公平な評価基準が不明確であることから、実際に取り組んでもそれが企業成長に直結しない点も指摘されています。
日本ではデカップリングを実現しにくい
これまでは企業成長とエネルギー消費は比例し、環境配慮への取り組みは利益を増やす上で“足かせ”になると考えられてきました。
しかし近年は、経済成長や社会の利便性を維持しながら同時にエネルギー消費を減らしていく「デカップリング」の考え方が浸透し始めています。(参考:内閣官房|グリーン成長戦略)
ただし、日本はまだまだ産業の多くを二酸化炭素排出国である中国・アメリカ・インドを相手にした輸出や輸入に依存していることから、デカップリングの実現が難しいと言われています。
特に多くの資源やエネルギーを消費する建築・住宅分野の姿勢は重要視されており、「木材利用」「国産資源の活用」がトレンドキーワードとして注目されています。
建築・住宅分野のGX推進が今後のキーポイントに
建築・住宅分野は、建物の新築・運用(利用)・解体・廃棄のライフサイクルを通じて多くのエネルギーを消費し二酸化炭素を排出します。
また、GDP(国内総生産)における建築と関わりのある分野の比率を見ると、17.5%(建設業5.5%・不動産業12.0%)とその影響は甚大です。※2021年時点(参考:経済産業省|業況)
そのため、建築・住宅分野が今度GXに対してどのような動きを取るかは重要なキーポイントとなります。
建築・住宅分野では以下の取り組みが進んでいます。
省エネ対策の加速
建物の断熱化・省エネ化や建築現場での消費エネルギー削減が進んでいます。
これらをさらに推し進めるために、令和7年度概算要求の脱炭素化事業では、経済産業省・環境省・国土交通省の3省協同で、以下のテーマに沿って補助金事業の実施が予定されています。
- 脱炭素でレジリエントかつ快適な地域とくらしの創造
- 地域・くらしを支える企業・物流・資源循環などバリューチェーン・サプライチェーン全体の脱炭素移行の促進
- 地域・くらしの脱炭素化の基盤となる先導技術実証と情報基盤等整備
住宅・建築物における木材利用促進
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、住宅・建築物への木材利用促進が重要な鍵を握っています。
木材の利用は、以下のメリットを生み出すためです。
- 森林サイクル(植林・間伐・伐採・利用)による木々の成長促進と森の活性化
- 森の活性化による炭素固定量の増加
- 林業・製材業の活性化による地域経済発展
特に日本は国土の2/3を森林が占めているため、木材利用による恩恵を多く受けるとされています。
そのため、戸建住宅などの小規模建築物に限らず、非住宅及び4階以上の建築物への木材利用率を上げるために、建築基準法における防火関連規定の整備や中大規模木造建築物の支援プロジェクトが実施されています。
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国産資源の活用
国産資源を積極的に活用することで、プロジェクトに係る物流・運搬からの二酸化炭素排出量を削減できます。
日本では豊富な森林資源を活用するための木材利用と併せて、国産材の活用と木材自給率向上が重要視されています。
木材を輸入材から国産材へ切り替えることで、大幅なCO2削減につながるのです。
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内装制限の対象となる建築物へご採用いただける製品を取り揃えておりますので、建物の設計デザインに木目を取り入れたい方はお気軽に弊社までご相談ください。
国内初の不燃・準不燃認定製品も|恩加島木材の「突板練付内装材」
無垢材と同じく天然木の風合いや木目を活かせるのが突板化粧板です。
突板とは丸太を0.2〜0.3mmと薄いシート状にスライスした素材で、それを合板やMDF、不燃パネルに接着することで様々な仕上げ材としてご活用いただけます。
“恩加島木材工業”は、1947年創業以来、突板製品専門メーカーとして時代の変化を見極めながら、国内に限らず世界中の銘木を使い、良質でバラエティに富んだ突板化粧板を作り続けてきました。
突板化粧板の魅力は以下の点です。
- 無垢材と同様のナチュラルな見た目と質感に仕上がる。
- 無垢材よりも軽量化を実現でき、施工効率性アップにつながる。
- 温度や湿度環境変化による変形リスクが少ない。
- 希少価値があり高価な材料でも、無垢材より木材量を減らせるため、安価で安定して材料を入手しやすい。
- 原木1本から取れる突板面積は無垢板材よりも広いため、同じ風合いを大量入手しやすい。
- 特殊塗装によって、表面の耐キズ性・耐汚性を高められ、日焼けによる変色も抑えられる。
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まとめ
GX推進法は2050年カーボンニュートラル実現に向けてラストスパートをかけるための施策であり、官民で協力して二酸化炭素排出量を削減するために欠かせない法令です。
ただし、現段階では企業の自主性に依存している点は否めず、建築・住宅分野での取り組みは今後の取り組みに影響するとされています。
「環境に配慮した建物にしたい」「脱炭素のコンセプトを強く打ち出した設計プランにしたい」という方は、木材利用と国産材活用の両方を実現できる恩加島木材の突板製品をご検討ください。