なぜ“放置林”が増加している?原因と解決策・活用方法を解説
街に住む多くの人はあまり実感しないかもしれませんが、日本は深刻な“放置林”問題を抱えています。
放置林の増加がもたらす影響は、森林の荒廃だけではありません。
そこで、今回は放置林問題の現状と危惧されているデメリット、さらに建築業界が取り組める解決方法についてお話しします。
環境に配慮した建物を実現させたい方は、ぜひ参考にしてください。
● 放置林が増えると、経済的・環境的なデメリットももたらすため、国と企業で解決に向けて取り組む必要があります。
● 恩加島木材は、産地にこだわった良質な突板を用いて、放置林対策として有効な間伐材・小径材を利用した突板製品を開発・販売しています。
Contents
放置林とは?面積割合の推移と増加の原因
日本は、国土面積のおよそ2/3(約2,500万ha)を森林面積が占める森林大国で、そのうち約1,000万haは人の手によって植林・伐採される“人工林”です。
その人工林の中で、長年手入れされず放置されて荒廃が進んでいるのが「放置林」。
この放置林の面積が、全国各所で増加しています。
内閣府の調査によると、森林所有者のおよそ8割は、森林経営に消極的で、さらにそのうちの7割は、木を伐採することすら考えていないというデータも出ました。(参考:林野庁|森林・林業政策の現状と課題)
2005年の調査によると、放置林の推定面積は以下のようになります。
無植栽伐採跡地 (人工林の皆伐後、再植林されていない森林跡地) | 2.1~10.2万ha |
無間伐林 (林齢が約30年生以上にもかかわらず間伐されておらず、樹木が過密している人工林) | 0.6~8.5万ha |
放棄竹林 (放置されている竹林) | 1.1~4.2万ha |
合計 | 3.9~22.9万ha |
同じく国土交通省の調査によると、2018年までに荒廃(消滅)する森林面積は「8.3万ha」とも推測されているのです。(参考:国土交通省|管理放棄地の現状と課題について)
林業従事者は2005年から2020年で5.2万人から4.5万人まで減少していることから、放置林がさらに増加していくことは想像に難くありません。(参考:林野庁|林業労働力の動向)
国土交通省は、2050年までに最大47万haもの所有者不明で放置される森林が増えるとシミュレーションしています。(参考:日本経済新聞|山林の荒廃どう防ぐ 2050年までに「所有者不明」47万ヘクタール)
放置される森林が増えている原因は、主に4つ考えられています。
- 丸太価格に対するコスト高さがもたらす「林業衰退」
- 「林業従事者の高齢化」
- 林業の衰退による「森林周辺地域の過疎化」
- 森林所有者の世代交代に伴う「所有者不明森林の増加」
- 森林所有者の世代交代に伴う「不在村者所有の私有林増加」
日本は他の森林国よりも丸太一本に対する伐採・運搬・流通コストが高いため、丸太を伐採しても利益につながりにくい現状があります。(参考:林野庁|我が国の森林管理をめぐる課題)
それによって、林業から離れる人が多く、従事者の高齢化は深刻です。
従事者が減ると、その周囲の地域の過疎化も進みます。
そして、森林所有者の世代交代に伴い、所有者が分からない森林や、近くに所有者がいない森林が増えているのも現状です。
このような原因によって、確実に日本の放置林は増えています。
放置林問題がもたらす弊害|土砂災害・森林衰退・二酸化炭素固定量の減少
「放置林はただ管理されていないだけで、人々の生活に影響はない」と思う方もいるかもしれません。
ところが、森林には私たちの生活に様々な効果を与えてくれています。
森林の機能 | 効果例 |
---|---|
「生物多様性保全」 | ・動植物の生息域保全=遺伝子・生物種保全 ・動植物の生態系保全(河川や沿岸域含む) |
「地球環境保全」 | ・二酸化炭素吸収=地球温暖化の緩和 ・化石燃料代替エネルギーの産出=木質ペレット等 |
「土砂災害防止」 「土質保全」 | ・地表の侵食防止 ・樹木による地滑りや落石、土砂流出防止 ・落ち葉などによる土壌保全 ・雪崩防止、防風 |
「水源涵養機能」 ※涵養(かんよう):自然に染み込み養成すること | ・洪水緩和 ・土壌にて水資源貯留 ・水量調節 ・水質浄化 |
「物質生産・経済効果」 | ・木材(燃料、建築資材、パルプ原料など) ・食料(きのこなど) ・肥料(落ち葉など) |
「快適な環境形成」 | ・夏の気温低下と冬の気温上昇 ・大気浄化(樹木による塵埃や汚染物質吸着) ・騒音防止 |
「文化・レクリエーション」 | ・景観形成 ・自然教育の場 ・地域の風土形成 ・療養や保養、休息の場 ・レジャー |
森林が放置されて荒廃すると、適切な管理が行き届かず、樹木の成長不良や倒木が進み、森林としての機能を維持できません。
特に、以下の弊害が懸念されています。
土砂災害の増加
森林が放置されて木々の成長が弱まると、土砂災害や地滑りのリスクが高まります。
成長を管理されている生き生きとした森林は、木々の足元に生える植物や落ち葉・落ち枝が地表を覆うことで、地表の侵食(風化)を食い止められるため、土砂の崩壊を防げられます。
また、木の根が地中に広がることで土壌層を固める効果も期待できます。
そのため、森林の衰退は、周辺の道路や人が住むエリアに直接的な悪影響を及ぼしかねません。
森林衰退によるCO2固定量減少・排出量増加
森林が衰退すると、木々がCO2を固定できなくなります。
樹木は、光合成の過程でCO2を吸収するので、地球温暖化防止において重要な役割を果たします。
林野庁の調査では、日本の森林が光合成によって吸収するCO2量は「年間でおよそ1億トン」にも上り、日本の総CO2排出量の8%、国内の自家用車が排出する70%分にも相当するとされているのです。(参考:林野庁|地球環境保全)
そして、住宅などを建てる際に必要な木材を国内で産出できなくなる点も大きな問題です。
木造は他の構造よりもライフサイクルCO2が少なく、さらに輸入材ではなく国産材を使うと、大幅なCO2排出量削減に繋がります。
林業・製材業衰退
2022年の国内総生産(GDP)における林業の割合は、たった「0.04%(2,766億円)」しかありません。(参考:農林水産省|GDP(国内総生産)に関する統計)
ところが、1989年は、GDPで林業が占める割合は「2%(約9,800億円)」でした。(参考:農林水産省|令和3年 林業産出額、内閣府|GDP統計)
この減少は、全てが放置林増加によるものとは言えませんが、一因であると言って間違いないでしょう。
このまま放置林が増え続ければ、林業従事者が減って産業自体が衰退する“負のサイクル”の加速が懸念されています。
木材自給率の低下
政府は、「林産業回復による経済効果・林業従事者の確保・環境問題への効果・SDGsの実現」などを目的に、木材自給率アップに取り組んでいます。
その成果もあり、絶頂期までとは言えないものの、1970年代を上回る数字に回復しています。
ところが、放置林が増えていくと、この木材自給率が再び低下し、輸入材に頼らざるを得ない可能性もあるのです。
そうなると、資材価格が高騰するだけではなく、さらに多くのCO2を排出してしまいます。
また、コロナ禍で住宅業界を揺るがしたウッドショックが再び起これば、経済的な打撃を受けてしまうかもしれません。
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〈放置林問題対策〉解決策や活用方法、2024年導入・森林環境税との関係
放置林問題を解決するために、政府はいくつかの取り組みを進めています。
その中には、建築業界全体とかかわりのある内容もあります。
林業の人材育成やDX化
林業従事者の高齢化と若者離れが深刻です。
2005年には約52,000人いた林業従事者は、たった10年後の2015年には、45,440 人(1985年比−64%)まで減っています。
人数減少と併せて“高齢化”も無視できません。
従事者のうち65歳以上の割合を示す“高齢化率”は、2020年には25%になり、全産業平均の15%と比べても格段に高い割合です。(参考:林野庁|林業労働力の動向)
若者の林業従事者を増やし、管理他行き届かない森を減らすために進められているのが、”スマート林業”です。(参考:林野庁|森林資源情報のデジタル化/スマート林業の推進)
森林簿や森林基本図の情報をデジタル化し、国が一括管理することで、放置林を把握でき、対策が取れるようになります。
また、ドローンやレーザー機器を使った森林計測を実験的に取り入れる地域も増えています。
このように、これまでアナログな方法をとっていた林業においても、DX(デジタルトランスフォーメーション)化することで、作業効率や収益性の向上が期待されています。
〈関連コラム〉
グリーントランスフォーメーション(GX)と建築|定義や方法をわかりやすく解説
建築の木造・木質化と国産材の利用促進
国産材の活用、つまり、木材自給率アップが進むと、林業が活気付いて放置林解決につながります。
国は、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を制定したことを皮切りに、建物の木造化・木質化を促進しています。
それに伴い、2025年の建築基準法改正でも、以下の点が盛り込まれています。
- 大規模建築物における防火規定変更(条件をクリアすれば、木の梁や柱を“あらわし”にできる)
- 中層建築物以上の別棟部耐火性能基準変更(5階以上9階以下の最下層部分に接する別棟は、条件を満たせば木造にできる)
(参考:国土交通省|改正基準法について)
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森林環境贈与税の活用
2019年に自治体への配分が開始した「森林環境譲与税」に続き、2024年には「森林環境税」の徴収が始まります。
「森林環境税」は、市町村単位で国税として年間1人当たり1,000円を徴収するため、ニュースなどで取り上げられているのを見かけたこともあるでしょう。
実は、森林環境税の使途の中に、「放置林対策」も含まれます。
今までは、所有者不明林などの放置林を管理するためには、自治体ごとでその資金を捻出しなければならず、なかなか改善が進んできませんでした。
しかし今後は、一度集められた森林環境税が森林の多い自治体へ配分され、森林維持にかかる資金として活用されます。
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“森林環境贈与税”をわかりやすく解説|概要や目的から使い道・問題点は?
間伐材の活用
人工林は、人が手入れをしなければ健やかに成長せず、荒廃が進みます。
手入れとは、樹木の足元に生える下草の処理や適切な間伐(間引き)を指しますが、特に間伐作業は労働力が必要で、利益を生み出しにくいのが現状です。
そこで製材業や木材製品メーカーが取り組み始めているのが“間伐材利用”です。
これまでも間伐材はペレットや薪に加工されてきましたが、それらで林業にもたらされる利益は微々たるものです。
そのため、間伐作業をさらに利益化できる建材への活用が注目されています。
間伐材・小径材利用へ積極的に取り組む“恩加島木材”
私たち“恩加島木材”は、地球環境や森林維持のために様々な取り組みを行っており、国産材の積極的な利用はもちろん、製造工程の自然エネルギー活用など、トータルCO2排出量の削減に努めています。
これらの取り組みと併せて力を入れているのが、間伐材や成長の早い小径材の活用です。
- 杉・桧の小径間伐材をバランスよく配置して美しい突板製品へ活用
- 間伐材や短期間で成長する植林樹木を利用した「人工突板」の開発・製造
間伐材のデメリットは、幹の細さです。
樹齢が若いため、細く耐久性が低いことから、構造材としてはなかなか利用できません。
また、幹が細いと、効率的に板材へ加工できません。
そこで注目されているのが、「突板」です。
木材を薄くスライスして板材貼り合わせることで、化粧板へ生まれ変わります。
私たち“恩加島木材”は、間伐材を原料とした突板化粧板の製造販売や、人工突板の開発製造を行っている、日本国内でも数少ないメーカーです。
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“人工突板”は天然木由来の建材。基礎知識やウッドショックとの関連性について解説
“恩加島木材”の突板製品
無垢材は、樹種によっては高価で加工性・施工性が低く、取り扱いが難しいデメリットがあります。
そこでおすすめなのが、「天然木突板化粧板」です。
表面材として用いられている突板は、天然木を薄くスライスしたシート状の材料で、それを合板などに貼り合わせた建築材料です。
温度や湿度の影響による変形リスクが低く、基材によっては軽量化や不燃化もできます。
“恩加島木材”は、国内外より良質な突板を仕入れ、高品質な突板製品を製造販売しています。
● 材料の軽量化が実現でき、施工効率性アップにつながる。
● 温度や湿度環境変化による変形リスクが少ない。
● 希少価値があり高価な材料でも、無垢材より木材量を減らせるため、安価な上に、安定して材料を入手しやすい。
● 樹木1本から取れる突板面積は、無垢材を板材にするよりも広いため、同じ風合いを大量入手しやすい。
● 特殊塗装によって、表面の耐キズ性・耐汚性を高められ、日焼けによる材料の変色も抑えられる。
● 貼り合わせる基材種類によっては、不燃・難燃認定を受けられるため、内装制限のある建築物にも採用しやすい。
無垢材の風合いを活かしながらも、コスト面・性能面のメリットをプラスした内装材こそ「突板化粧板」です。
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PANESSE(パネッセ)
弊社オリジナルの天然木練付化粧板のシリーズで、基材によって「不燃ボード」「難燃ボード」「MDF化粧合板」「突板シート」「有孔パネル」「テクスチャーボード」と多彩なラインナップをご用意しています。
樹種は40種類以上から選定可能で、国産材・地産材のご注文も承っておりますので、産地にまでこだわりたい方におすすめです。
リブパネル・ルーバー
弊社では、PANESSEと同じ樹種ラインナップで、最近トレンドのリブパネルやルーバーもご用意しています。
リブパネルは、もちろん天然木練付化粧板に貼り付けた仕様で、あらかじめ工場でパネル組みをしている高精度・省施工型の製品です。
基材は不燃(ダイライト、エースライトなど)やアルミ押出成形品(※ルーバーのみ)からお選びいただけますので、内装制限のある建物へもご採用いただけます。
天然木突板シート
木口や細かい部分、曲部には、突板化粧板と同様に天然木突板を用いた「突板シート」をご採用ください。
こちらも、PANESSEの化粧板と同じ樹種をご用意しています。
特殊複合紙の表面に0.2mm厚さの突板を貼り合わせた総厚0.4mmの化粧シートで、板状の材料では対応しきれない部分の施工におすすめです。
国土交通省からの個別認定を取得済みの不燃材料であるため、内装制限のある施設にもお使いいただけます。
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まとめ|放置林問題解決は経済面・環境面でメリットに
近年、林業従事者の減少などの要因によって増え続けている「放置林」ですが、このまま増え続けると、経済的にも環境的にも人々の生活に大きな影響を及ぼします。
そのため、建築も木造化や国産材の利用によって、少しでも解決していかなくてはいけません。
解決するためには、建築デザインに木材を積極的に取り入れる他、林業の利益化向上のために、間伐材や小径材を使うことも重要です。
そこでおすすめなのが、「恩加島木材の突板化粧板」です。
国産材を取り入れたい方はもちろん、間伐材・小径材を使い、サスティナブルな建築を目指したい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
恩加島木材の歴史ある熟練技術で、デザイナー様や設計士様の疑問やご要望にお応えします。