“木育”とは?その目的やサスティナブル社会との関連性は? メリットから補助金について徹底解説
皆さんは、「木育(もくいく)」という言葉を聞いたことはありますか?2004年に生まれた教育概念で、最近では国や自治体を挙げてその推進に取り組んでいます。しかし、まだまだその本来の意義やメリットについては浸透しきれていません。
そこで、今回は「木育」についての基礎知識から、その目的やもたらされるメリット、SDGsとの関連性などについてまで詳しく解説します。建築物の社会的意義を高めるためにも、ぜひ「木育」を設計やデザインに生かしてみてください。
●木育を通して、SDGsの目標達成に貢献できます。
●これからは「地域材の積極的な利用」など、建物の設計やデザインにも木育の知識が活かせます。
Contents
「木育」は幼児教育だけではなく生涯教育にも
「木育(もくいく)」とは、2004年に北海道庁が主導でスタートした「木育プロジェクト」によって提言された教育概念で、幼少期から木や森林と触れ合い親しみを感じることで、豊かな心を育てる目的で始まりました。
森林資源の保全と活用のバランスがとれた「木の文化」は 古来受け継がれてきた日本の文化であり、「適材適所」に木を使ってきた知恵と技わざによるものです。それは自然と共生して暮らしてきた北海道の先住の人びとの文化とも相通ずるものと考えられます。しかし、現在のわたしたちの社会にこうした「木の文化」がしっかりと継承されているとは言えません。
(中略)
私たちは、木を子どもの頃から身近に使っていくことを通じて、人と、森や木との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育てたいという想いを「木育(もくいく)」という言葉にこめました。子どもをはじめとするすべての人びとが、木とふれあい、木に学び、木と生きる。それが「木育(もくいく)」です。
引用:木育推進プロジェクトチーム
この北海道から始まった試みは、今や日本全国へ広がり、国や地方自治体が様々な取り組みを行っています。最近では、その対象を幼児だけに限らず高齢者にまで広げ、生涯学習としてイベントやワークショップが開催されています。
「触れる・感じる」
「創る・楽しむ」
「知る・理解する・行動する」
これらが三位一体となって、肌で“木”魅力を実感し、幼児期から原体験として触れ合いことで、豊かな暮らしづくりや森の活性化に貢献できる人材を増やすことが一番の目的です。
「木育」には間違った“正義感”を正す目的も
木育プロジェクトが始まった当初は「割り箸は自然環境を壊す」「木を伐採するのはよくない」と、誤った知識ばかりが先走っており、大人でも正しく理解していない人が少なくありませんでした。
確かに、世界全体で見ると人間の森林伐採が自然環境を壊しているケースが多いですが、実は国内に目を向けてみると、森林の伐採は一概に悪いとは言い切れません。
日本は世界有数の森林大国であるものの、林業の衰退などによって2000年頃には建築木材の多くを輸入材に頼っていました。そのため、森林の木々が放置されてしまうという問題が深刻化すると、余計に木材を海外に依存するという悪循環が起こってしまったのです。
本来、森林は「植林→伐採→製材→植林…」を繰り返すことで活性化します。しかし、そのサイクルの重要性が消費者まで届かないと、林業・製材業の衰退、最終的には地球環境保全にまで悪影響を及ぼす可能性すらあるのです。
そういった観点からも、木育はこれからの日本においては非常に重要な取り組みと言えるでしょう。
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下記コラムでは、国産材を使うことの重要性や国が推奨している取り組みについて詳しく解説しています。
恩加島木材工業|コラム|今こそ木材も“地産地消”する時代。脱炭素化に向けた地産材・地域材利用について解説
メリットやもたらされる効果は?
「木育」は、何も自然や環境問題に興味のある人だけのものではなく、日頃都会で過ごしている人にとっても、とても重要な意義を持ちます。特に、普段森林と触れ合う機会がない都心部の子供にとって、「木育」は日本の重要な資源と触れ合える有意義な機会となるでしょう。
老若男女の人にとって、「木育」と触れることでもたらされる主な効果は、下の3つです。
- 五感が刺激され、感性が広がる。
- リラックス効果や情緒安定
- 環境を愛し、育てる人材の育成
まず、森林などの自然や木材と触れ合うことで、五感が刺激されて感性や物事への視野が広がる効果が期待できます。特に、温度変化に敏感な幼い子供の場合は顕著で、人肌のような温もりのある質感に触れることで、本能で“心地よさ”を感じ、好奇心や集中力を養うと言われています。
また、木の質感だけではなく匂い成分にも、リラックス効果があることが立証されており、大人にも情緒を安定させる作用が期待できます。
そして何より、木の魅力を知ることで、将来的に環境を愛し、育てる人材が増えることが最も大きな意義です。残念ながら、小さい頃からプラスチック製品に囲まれた現代の子供たちにとって、“木”はあまり身近存在ではありません。しかし、木育を通して木に触れることで、「自然を守る心」が自然と芽生え、環境問題への意識が高い子供たちが増えることが期待できます。
このように、「木育」は現状の暮らしを豊かにするだけではなく、遠い将来まで地球環境を維持する意識を自然と身につけることが大きな意義でありメリットでもあるのです。
〈関連コラム〉
下記コラムでは、木が人にもたらす効果についてさらに詳しく解説しています。是非合わせてご覧ください。
恩加島木材工業|コラム|今“内装の木質化”が注目されている訳とは? その効果や取り入れるべき建築物について徹底解説
「木育」先進国のドイツ
日本でもここ10年、様々な取り組みが実施されていますが、残念ながら世界に目を向けるとまだまだ後進国です。では、世界ではどのような木育が行われているのでしょうか?
最も有名な例が、ドイツの「森の幼稚園」です。きっかけは1950年代にまで遡り、一人の女性が自分の子供を毎日森に連れて行き遊ばせたのが始まりです。その様子を見た近所の人たちが「自分の子供も面倒を見て欲しい」と思い、融資で自主運営による「森の幼稚園」を作ったのです。
「森の幼稚園」には、校舎はもちろん、机や椅子などは一切ありません。森そのものが教室でもあり遊び場でもあるのです。
その後1990年代に入ると、ドイツで急激に広がり、現在は100以上も開園されています。北米や日本でも活動の場は広がり、高い注目を受けています。
世界中の児童心理学者や教育学者が「森の幼稚園」をケーススタディした結果では、通常の幼稚園に通っている子供と比べても、学習面・社会行動・身体能力など様々な面での成長が早いという結果が出ています。そのことからも、木と触れ合い培われた想像力や集中力などが、その後の人生においても大きな効果をもたらすことが実証されていることが分かります。
〈関連ページ〉
こちらのページでは、日本国内における「森の幼稚園」について詳しく紹介されています。
NPO法人 森のようちえん全国ネットワーク連盟|森のようちえん宣言
「木育」とSDGsとの関連性は?
最近新聞やテレビなど各種メディアを賑やかしているのが「SDGs」ですが、実は木育もその一端を担っています。
SDGsの17の目標のうち、特に関係が強いのは下の3つです。
SDGs目標では、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの利用拡大が掲げられていますが、石油(化石)燃料を木材燃料へ切り替えることも、有効な対策の一つとされています。
残念ながら、日本はエネルギー需要の多くを輸入した石油(化石)燃料に頼っていますが、その一部を国産の木質バイオマスエネルギーに変換することで、燃料運輸時の二酸化炭素排出量を抑制できます。
もちろん、全てのエネルギーを木質系燃料に切り替えることは難しいですが、エネルギーの多様化やリスクの分散という観点からも、導入に対する取り組みが盛んになっています。学習を通して、クリーンエネルギーに触れることも、木育の意義でしょう。
地球温暖化抑制に対する効果的な取り組みとして、森林資源の保全や健全化が挙げられます。これは、木々が光合成によって大気中の二酸化炭素の吸収・固定を行うためです。
もちろん、木質系燃料をエネルギーとして燃焼させれば、多くの二酸化炭素が発生します。しかし、これらの二酸化炭素は、樹木の伐採後に再び植林されて森林が生まれ変われば、その成長の過程で再び樹木に吸収されることになるのです。
つまり、木を使い再び植えることこそ、人間の生活を維持しながらできる有効な地球温暖化対策になり、このサイクルについて子供から大人まで理解を深めることが急務な課題なのです。
地球の表面積の約30%は森林で覆われているものの、気候変動や大量の伐採により、その広さは年々減少してしまっています。そういった現状の中、森林の循環・再生・保全は、天然資源の確保だけではなく、その土地の経済活性化にも繋がります。
木育を通して、そういった社会構成を学ぶことも、将来まで環境を守るためにも意味がある取り組みとなるはずです。
具体的な方法や自治体の取り組みは?
では、木育は具体的にどのような方法で行われているのでしょうか。実は、そのプログラムの内容は対象者の年齢やフェーズによって異なります。
〈第一段階〉
木のおもちゃや家具、内装に「触れる・感じる」
幼少期のうちは、木と感覚的に触れることが目的です。木の温もりや柔らかい質感を肌で感じ、実体験として定着させます。
〈第二段階〉
林業関係者や製材業者、メーカー、自治体などによるワークショップへ参加し、「創る・楽しむ」
実際に森林へ出向いたり、木に携わる企業の現場を間近に見て参加することで、実際にどのように森林から木材、製品になっていくのかを経験を踏まえて深く理解できます。
〈第三段階〉
関係者との情報共有や、ネットワークの構築
森林や樹木への本能的な理解や経験値が高まったら、そこで得た知識や感想を関係各者と共有し、これからのあり方などについてディスカッションします。
そうすることで、傍観者ではなく当事者であることを意識させ、将来木の大切さを広める人材を育てることに繋がります。
このように、年齢や知識の深さ、経験の量に応じて、木育の内容をグレードアップしていくことが重要とされており、段階を踏むことでただの知識ではなく実感させることを目標としています。
全国で行われている木育プロジェクト
全国各地では、「木育」という大きなキーワードを軸に、様々な取り組みがなされています。
例えば、木育指導のプロ「木育マイスター」の育成や地域材(地産材)を使った机の製作・配布、林業・木材産業の発展を目的とした施設建設、オガクズ材を使ったワークショップなど…、その活動は多岐に渡っています。
これら取り組みの主な活動資金は、今まで地方税の一部で賄っていましたが、2024年からは森林環境譲与税の徴収が開始され、より一層活発化することが期待されています。
森林環境税とは、2024(令和6)年度から国内に住所のある個人に対して課税される国税であり、市町村において、個人住民税均等割と併せて1人年額1,000円が徴収されます。その税収の全額が、国によって森林環境譲与税として都道府県・市町村へ譲与されます。
引用:総務省|森林環境税及び森林環境譲与税
(中略)
森林には、国土の保全、水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全などの様々な機能があり、私たちの生活に恩恵をもたらしています。しかし、林業の担い手不足や、所有者や境界の不明な土地により、経営管理や整備に支障をきたしています。森林の機能を十分に発揮させるため、各地方団体による間伐などの適切な森林整備が課題となっています。
このような現状に加え、パリ協定の枠組みにおける目標達成に必要な地方財源を安定的に確保する必要が生まれ、森林環境税及び森林環境譲与税が創設されました。なお、森林整備が緊急の課題であることを踏まえ、森林環境譲与税は、2019(令和元)年度から前倒しで譲与することとしています。
〈関連ページ〉
各都道府県別の木育への取り組みについては、下記ページをご覧ください。
海外に向けた「木育」の取り組み
インバウンドの増加に伴い、日本が誇る資源である森林をより海外へアピールし、国内外でのさらなる木材利用そ推進するために、2018年から日本の「木の文化」とそれを生かした「木のおもてなし」について、新たに発信する取り組みが進んでいます。
例えば、全国各地の「木の文化」事例をまとめた「木の文化・木のおもてなしガイドブック」の作成や、岐阜県飛騨などの世界的観光地であり林業が盛んな地域において、地域内の林業・製材業者と観光関係者、自治体が連携して、海外からの旅行客を対象としたワークショップやツアー等を実施しました。
これらの活動を通して、日本の森林や木材建築の魅力を海外へ発信し、地球規模の木材利用促進を目指しているのです。
恩加島木材の取り組み
私たち恩加島木材では、国内各地の地産材利用も積極的に行なっております。地産材利用は、その土地の子供たちへの木育にも大きな意義があり、さらには地元の利用者から愛される建物になるはずです。
建築設計やデザインの際には、ぜひ木育の知識を活かして取り組んでみましょう。
当社では、突板の流通市場に頼らずに原木市場や製材所から直接仕入れて、自社で選木・加工・販売することも可能です。原産地を日本国内に限定した樹種を常時取り扱っているほか、地産材を利用した突板も数多くご注文いただいております。その建物の社会的価値を高めるためにも、ぜひ国産材を使った突板製品をご検討ください。
香川県多度津町庁舎(香川県産材利用)
某百貨店 什器(大阪府内産桧利用)
新居浜商業高校 体育館(愛媛県産材利用)
京都女子大学(京都府内産桧利用)
京都 某ホテル(京都府内産利用)
〈関連ページ〉
下記ページでは、当社が常時取り扱っている国産材を使った突板のラインナップや納入実績を紹介しています。ぜひご覧ください。
〈関連コラム〉
地産材についてさらに詳しく知りたい方は、下記コラムも合わせてご覧ください。
恩加島木材工業|コラム|今こそ木材も“地産地消”する時代。脱炭素化に向けた地産材・地域材利用について解説
まとめ|「木育」で日本の森林資源を見直しましょう
木育は、日本が誇る森林資源の魅力を見直し、さらには後世に受け継いでいくために有意義な取り組みです。国や自治体だけではなく、“木”に携わる企業・団体が積極的に参加し、イベントの実施などに取り組んでおり、今後もその動きはより活発になることが予想されます。
ですから、建物を設計デザインする際も、木育を意識したプランニングが必要になってくるはずです。ぜひ、今回紹介した内容を皆さんの設計やデザインに生かしてください。当社も、地域材を使った天然木突板化粧板の製作販売を通して、これからも木育へ取り組んでいく所存です。
私たち恩加島木材では、様々な木目の化粧板やルーバー・リブパネル、有孔ボードなどを製造販売しております。そのため、空間全体をトータルコーディネートすることも可能です。統一性のある洗練されたデザインをご希望の際には、ぜひに一度恩加島木材にご相談ください。
〈関連ページ〉
当社の納入実績は下記ページをご覧ください。
恩加島木材が現場の様々なご要望にお応えします
「プリントシート材の木目だと味気なく個性が出せない」「天然木を使用したいが無垢材だとコストが高くメンテナンスが不安」そんな時には、天然木突板を使っておしゃれで安らげる空間をデザインしてみませんか?恩加島木材の歴史ある熟練技術で、デザイナー様や設計士様の疑問やご要望にお応えします。随時、木材選定から各種オーダー加工に関するご相談を承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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