“木材利用促進法”は公共施設だけではなく民間施設にも。 概略から木材利用のメリット・補助金まで詳しく解説
2000年代に入ってから「地球温暖化」や「温室効果ガス」、「脱炭素化」など、地球環境が抱えている問題に関してメディアで目にすることが非常に多くなりました。いよいよ世界中が具体的に問題解決に向けて取り組まなくてはいけない局面になりつつあります。
日本でもSDGsキャンペーンの普及など、各分野において様々な取り組みがなされていますが、その中の一つが「木材利用促進法」の制定です。しかし、いまだにエンドユーザーへはそれほど認知されておらず、その重要性について理解している人は多くありません。
そこで、今回は「木材利用促進法」の基本方針から制定された目的や、木材利用のメリットについて、詳しく解説します。今回紹介する内容を踏まえて設計・デザインすることで、より施主様への説得力が増すはずです。皆さん、ぜひ参考にしてください。
・木材を建築物に利用する目的は、環境問題対策だけではなく、私たちの生活に直結するメリットも多くあります。
Contents
今、どうして木材利用が推進される?環境面以外のメリットはある?
そもそも、何故国は新たな法律を制定してまで “木材利用” を促進するのでしょうか?それには現在世界が抱えている環境問題に対して有効な解決策へとつながるからです。
主な理由は、以下の4点です。
- 木材を積極的に利用することで、森林が循環して森が活性化する
- 森林が成長過程で多くのCO2を吸収するため、地球温暖化防止に繋がる
- 他の建材と比べて、ライフサイクルCO2排出量が少なく、建設時に必要なエネルギー量も軽減できる
- 再生可能資源であるため、SDGsの観点からも効果的
まず、健全な森林を保つためには「植木→伐採→生産化」のサイクルを絶えず繰り返す必要があります。その過程で、若い木々は成長するために多くの炭素を取り込み、それが地球温暖化防止に繋がります。
そして、建築物になるまでの「過程(加工・運搬・施工)=ライフサイクル」におけるCO2排出量は、他の資材と比べても格段に少ないことからも、脱炭素化に向けた積極的な利用が求められています。さらに、木材は廃材になった後も、製紙用木材チップやバイオマス燃料など、再生資材としての利用も可能なため、SDGsの取り組みとしても注目されています。
ここで知っておいていただきたいのが、「木材利用=環境問題対策」だけではないとう点です。実は、それ以外にも私たちの生活に直結するメリットがいくつもあります。
- 他の構造材よりも比強度が高いため、耐震性が高い
- 加熱による強度の低下が緩やか
- 光の反射率が低いため、目に負担がかかりにくい
- 程よい硬さであるため、体への負担や怪我のリスクを軽減できる
- 調湿機能があり、快適な空間を作りやすい
- 木の香りには鎮静作用があり、リラックス効果や集中力アップが期待できる
- 色褪せやツヤなどの経年変化は、建物への愛着感を持たせる
では、それぞれについて詳しく解説していきます。
メリット① 比強度が高い
まず、「比強度」とは材質の強度を示す数値のことで、強度(N/m㎡)÷密度(N/mm3)で求めることができます。木材は他の建材と比べても、明らかに比強度が高いというデータが出ています。
データからも分かる通り、「比強度は高い=軽くて丈夫」ということです。つまり、少量で高い耐久性を確保でき、地震に強い材料であること示しています。
木材の持つ軽さやしなやかさ、耐久性は、住宅だけではなく公共施設の耐震性を確保する上でも有効的なのです。
メリット② 火に強い
建物において強度と同様に重要なのが、耐火性です。「木は燃えやすい」というイメージが強いため、防耐火性能は低いと思われがちですが、実は金属と比べても決してそうとは言い切れません。
むしろ、木の加熱時における強度低下速度は金属と比べても緩やかなので、避難時間を十分確保できるという点から、材料によっては耐火建築物や準耐火建築物への使用も認められています。
〈関連コラム〉
下記コラムでは、耐火建築物や準耐火建築物を考える上で欠かせない「不燃材料」について解説しています。
恩加島木材工業株式会社|コラム|公共施設・商業施設に欠かせない不燃材料。防火性能や突板練付不燃板について解説
メリット③ 体への負担を軽減でき、精神面での効果が得られる
プラスチック系建材や金属と比べても、木材は光の反射率が低く、太陽光や照明の明かりを柔らかくする効果があります。そのため、目が疲れにくく、学校や図書館などの内装へ積極的に取り入れられています。また、木の“固すぎず柔らかすぎない”質感は、衝撃を適度に吸収し、歩行時の足にかかる負担や、衝突時の怪我リスクも軽減できます。
その他にも、木は湿気を吸収・放出する特性を持つため、室内の湿度を快適に保つことができ、杉などの香りには鎮静作用やリラックス効果・集中力アップ効果があるとも言われています。そのため、教育関連施設や福祉施設、ホテルなどの療養施設など、様々な建築物で木材を取り入れたインテリアが実現しているのです。
さらに注目されているのが「愛着心を育てる」という点です。木は金属やタイルなどと比べても傷が付きやすく、変色しやすいことがデメリットと捉えられていましたが、最近では「使っていくうちに現れる変化」を魅力と捉え、時間の流れを楽しみたい方が増えてきています。
経年変化を欠点と捉えるのではなく、むしろ愛着心を育む長所とすることで、より利用者に親しまれる建物づくりにつながるでしょう。
〈関連コラム〉
下記コラムでも木材を利用することで得られるメリットについて、さらに詳しく解説しています。是非合わせてご覧ください。
恩加島木材工業株式会社|コラム|今“内装の木質化”が注目されている訳とは? その効果や取り入れるべき建築物について徹底解説
2021年に改正された“木材利用促進法”その基本方針や目的は?
一般的に「木材利用促進法」と呼ばれている法律は、平成22年5月26日に制定されてました。その基本理念は以下の通りです。
この法律は、木材の利用を促進することが地球温暖化の防止、循環型社会の形成、森林の有する国土の保全、水源の涵かん養その他の多面的機能の発揮及び山村その他の地域の経済の活性化に貢献すること等に鑑み、建築物等における木材の利用を促進するため、木材の利用の促進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、並びに建築物における木材の利用の促進に関する基本方針等の策定、建築物における木材の利用の促進及び建築用木材の適切かつ安定的な供給の確保に関する措置等について定めるとともに、木材利用促進本部を設置することにより、木材の適切かつ安定的な供給及び利用の確保を通じた林業及び木材産業の持続的かつ健全な発展を図り、もって森林の適正な整備及び木材の自給率の向上に寄与するとともに、脱炭素社会(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)第二条の二に規定する脱炭素社会をいう。第三条第一項において同じ。)の実現に資することを目的とする。
引用:林野庁|法律の新旧対照表
- 森林大国である日本の森林資源を活用し、地域経済の活性化を図る
- 木材利用に関する国や自治体の責務を明確にして、促進につなげる
- 木材の安定供給や利用確保を目指し、衰退しつつある林業や木材産業の持続や発展を図る
- 森林を整備して、輸入材に頼らずに木材自給率を上げる
- 地球温暖化防止を目的とした脱炭素化を目指す
これらの基本理念を維持しつつも、制定当時から現在に至るまで、情勢に合わせてその目的や内容が微妙に変化しています。変遷は以下の通りです。
2010年(平成22年)
「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定される
第二次世界大戦後に全国で植林された森林資源が利用に適した成長を遂げたため、積極的な森林循環を図る目的と、脱炭素化社会に向けた新たな取り組みとして、制定されました。
制定後、公共建築物の木造率は上昇
制定から10年間で、公共建築物の木造率(床面積基準)は8.3%から13.8%にまで上昇しました(林野庁調べ)。耐震技術や防耐火技術の発展や、建築基準の合理化がその一因と考えられます。
2021年(令和3年)
「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」へ改定
より建物の木造化を進めるためには、法の対象を民間施設まで拡大する必要があり、題名を「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」から「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」へ変更し、“脱炭素”という最大目的を明確化しました。
基本理念や法律の大枠は変わっていませんが、一部内容が追加されました。改定前からの主な変更点は以下の点です。
- 脱炭素社会の実現に向けた木材利用の意義について基本理念を追加
- 対象が、「公共建築物」から「建築物一般(=民間施設を含む建築物)」へ拡大
- 林業や木材産業に関わる事業者に対して、木材の安定供給に努めるよう定めた
- 木造建築物の設計や施工に関する先進的技術の普及促進
- 建築物木材利用促進協定制度を創設し、同意した事業者の取り組みを積極的に支援
- 高い強度や耐火性を持つ建築用木材の製造技術開発や普及の促進
- 優れた事業者への表彰
- 農林水産大臣・総務大臣・文部科学大臣・経済産業大臣・国土交通大臣・環境大臣等で構成された「木材利用促進本部」を設立し、木材利用促進に関する施策の実施を促進
建築物における木材利用をさらに推し進めるために、法律に則って国や自治体が開発・製造技術や普及をサポートすることを明確化しました。
また、林業・木材産業事業者は資材の安定供給に努め、建築事業者は積極的に木材を利用し、国や地方自治体の施策に協力することを定めたことで、「脱炭素社会の実現に向けた国民運動の展開」に向けて、大きな一歩を踏み出したのです。
本法律のポイントは、一方的に国や自治体が木材利用を義務化するのではなく、事業者が国や地方公共団体から必要な支援を受けられるという点です。
これによって、今後さらに建築物の木造化が進むみ、国を挙げた脱炭素化社会に向けた大きな取り組みとなることが期待されています。
〈関連コラム〉
下記コラムでも、木材利用促進や脱炭素化について解説しています。是非合わせてご覧ください。
恩加島木材工業株式会社|コラム|今こそ木材も“地産地消”する時代。脱炭素化に向けた地産材・地域材利用について解説
関連する補助制度は?
木材利用促進に伴う「内装の木質化」や「地産材利用」について、各省庁や関連団体によって様々な助成事業が作られています。ここではその一部を紹介します。
【公益財団法人 日本住宅・木材技術センター】
木材需要の創出・輸出力強化対策のうち内装木質化等促進のための環境整備に向けた取組支援事業のうち内装木質化等の効果実証事業
【文部科学省】
サステナブル建築物等先導事業 (木造先導型)
公立学校施設整備費負担金
【その他自治体による事業】
埼玉県|県産木材を利用した住宅等への補助について
長野県|県産材利用推進室
福井県|県産材を活用したふくいの住まい支援事業
広島県|県産材消費拡大支援事業
(上記はあくまで一例です。その他の都道府県・市町村でも、地産材利用に関する助成制度があります)
ただし、どれも年度ごとの予算に限りがあり、いつ廃止になるか分からないため、申請すれば必ず通ると言う訳ではありません。利用を検討する際は、必ず担当各局に早めに問い合わせましょう。
恩加島木材の取り組み
私たち恩加島木材では、国内各地の地産材利用も積極的に行なっております。また、突板の流通市場に頼らずに原木市場や製材所から直接仕入れて、自社で選木・加工・販売することも可能です。原産地を日本国内に限定した樹種を常時取り扱っているほか、地産材を利用した突板も数多くご注文いただいております。建物の社会的価値を高めるためにも、ぜひ国産材を使った突板製品をご検討ください。
香川県多度津町庁舎(香川県産材利用)
某百貨店 什器(大阪府内産桧利用)
新居浜商業高校 体育館(愛媛県産材利用)
京都女子大学(京都府内産桧利用)
京都 某ホテル(京都府内産利用)
〈関連ページ〉
下記ページでは、当社が常時取り扱っている国産材を使った突板のラインナップや納入実績を紹介しています。ぜひご覧ください。
まとめ|木材利用促進によって「建物の木質化」が進んでいます
今回は、2021年に改定された「木材利用促進法」や木材を取り入れるメリットについて解説してきました。地球環境を守るための目的で制定されたと思う方も多いかもしれませんが、実は地域経済の活性化や森林資源に関わる産業を守るための施策でもあります。
木材を建物に取り入れることで、安心・快適な空間づくりを実現することもできるため、近年では建物の用途を問わず、様々なシーンで建物の木質化が進んでいます。
私たち恩加島木材では、様々な木目の化粧板やルーバー・リブパネル、有孔ボードなどを製造販売しております。空間全体をトータルコーディネートできることはもちろん、建物を利用する方の健康にもメリットのある商品をご提案することも可能です。統一性のある洗練されたデザインをご希望の方や、利用者に寄り添った建物づくりを目指したい方は、ぜひに一度恩加島木材にご相談ください。
〈関連ページ〉
当社の納入実績は下記ページをご覧ください。
恩加島木材が現場の様々なご要望にお応えします
「プリントシート材の木目だと味気なく個性が出せない」「天然木を使用したいが無垢材だとコストが高くメンテナンスが不安」そんな時には、天然木突板を使っておしゃれで安らげる空間をデザインしてみませんか?恩加島木材の歴史ある熟練技術で、デザイナー様や設計士様の疑問や要望にお応えします。随時、木材選定から各種オーダー加工に関するご相談を承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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